動物病院アニマルプラス
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脳腫瘍

動物の種類
年齢 10歳
診療科目
症状 突発的なふらつき(一瞬こけてその後数分ふらつく)がたまに起こることを主訴に来院。 普段は特に変わった様子はなく、元気や食欲は良好

症状概要

心電図や心・腹部のレントゲンエコー検査、血液検査、肝機能検査(総胆汁酸)では症状に直結するような著変はなく、神経疾患(頭蓋内疾患)を疑い二次診療施設にてMRI検査を実施。

治療方法

検査では、脳底部~小脳。脳幹部まで(頭頂部を除く脳全域)の髄膜に造影剤に増強される占拠性病変が認められ、脳腫瘍(髄膜種)を最も疑う結果でした。 病変の局在から外科的治療や放射線治療は適用困難と判断されたため、抗がん剤による治療と症状および生活の質を維持する内科的治療を行っていくこととなりました。

治療・術後経過

抗がん剤(ロムスチン)による治療を開始するとともに、頭蓋内圧の上昇を考慮してイソバイトにて脳圧を下げる治療を行ったところ症状の改善が見られ、約3か月ほどは維持できた。その後、てんかん様発作が発現したためゾニサミドを追加し、4か月ほどは症状は維持できたが、寝ていることが増えたり食べムラがでてきたりと徐々に生活の質(QOL)の低下が見られたため、プレドニゾロンを追加したところQOLが改善した。 その後は、症状に応じて薬剤の増減を行って対症療法を行い、状態を維持していましたが、腎機能の低下も併発し診断から約10ヶ月後に亡くなりました。 髄膜は脳を覆う3つの膜性組織(硬膜、くも膜、軟膜)の総称で、髄膜腫はくも膜上皮を起源としていて、ヒトと比較して犬の髄膜腫は悪性傾向を示すと言われています。 髄膜腫が発生して増大すると、周囲の脳実質に二次的な影響がでて、各種症状が発言するため、治療は髄膜腫自体に対する治療と二次的な症状に対する治療を並行して行います。 腫瘍自体に対する治療は①外科摘出 ②放射線療法 ③抗がん剤に分けられます。①は第一選択ですが、発生部位などにより困難な場合も多く、また境界が不明瞭なことが多いため不完全な切除となることも多いです。②は手術が不可能な場合や、術後の併用療法として行われますが、正常脳組織へのダメージが問題となります。ある研究では、生存期間の中央値は8か月で75%で進行や再発がみられたという報告があります。 ③については、ほとんどの薬剤が血液-脳関門を通過できない(脳に薬が届かない)ため、脳腫瘍の治療に使える薬剤は限られますが、脂溶性の薬剤(今回使用したロムスチンなど)は脳脊髄液中に移行するため脳腫瘍の治療に用いられますが、抗がん剤による治療実績の報告はまだ少なく、確立された治療ではありません。ある研究では、ロムスチンによる治療の生存期間の中央値は6か月との報告があります。 二次的な症状に対する治療は、浸透圧利尿剤による脳圧の管理、ステロイドによる浮腫の軽減、てんかん発作のコントロールなどがあります。また、元気や食欲の低下のほかに、障害を受ける脳の場所により、呼吸不全や運動機能の低下、排泄困難などの様々な症状もでる可能性があるため、状態に応じて対処が必要です。 本症例では幸い大きな痙攣や排泄障害んどもなく、対症療法により比較的末期まである程度の状態が維持できた症例と思われます。