2022.09.23
『解説』アトピー性皮膚炎について
獣医師の古荘です。今回はアトピー性皮膚炎についての解説です。
慢性的に皮膚の痒みに悩む方は多いですが、梅雨以降の暑くてジメジメした時期もそうですが、今のような季節の変わり目には痒みが発症する方も多いです。アトピー性皮膚炎は治ることのない一生付き合っていかないといけない疾患です。ですので、わんちゃんも飼い主さんも大変だと思いますが、この記事が少しでもお役に立てればと思います。
アトピー性皮膚炎とは?
犬アトピー性皮膚炎の学術的な定義は「遺伝的素因が関与する炎症と痒みを伴うアレルギー性皮膚疾患であり,環境性抗原に対する IgEが関与する特徴的な臨床症状を呈することが最も一般的である」とされていますが、簡単にいうとアレルギーや、体質的に皮膚のバリア機能が弱いことで見られる痒みを伴う皮膚病です。
皮膚のバリアとなる角質がイヌはヒトの1/3ほどの厚さしかありません。そのため、ちょっとした乾燥、刺激、ストレスで炎症を起こしてしまいます。特に環境性のアレルゲン(ハウスダスト、花粉、マラセチア(皮膚の常在菌)など)に免疫反応が過剰起こって炎症が起きやすいといわれています。
環境性のものなので、完全な除去は難しく、炎症を抑えるなどの治療を行いますが、根本治療はないので生涯治療が必要となります。
またアトピー性皮膚炎では、元々皮膚が弱いことに加え慢性的な炎症でさらに皮膚コンディションが悪くなるため、二次的に感染性皮膚炎(細菌性の皮膚炎やニキビダニ症など)を繰り返し起こすことがよくあります。ですのでアトピーの治療に加え、必要に応じて感染性皮膚炎の治療が必要となります。
アトピー性皮膚炎の管理の基本
アトピー治療の柱は大きくわけて4つです。どれかだけを行えばよいのではなく、それぞれ組み合わせて最大の効果を狙います。また、常に同じ治療が必要なのではなく、その時々のコンディションに応じて変えていく必要があります。
1。アレルゲンの除去
完全な除去は難しいですが、住環境の清浄やシャンプーでアレルゲンの数を減らすことは、効果的な場合があります。
ハウスダストは完全に除去することはできないと言われていますが、掃除や空気清浄機である程度軽減できることがあります。また、シャンプーは「低刺激性で保湿力の高いシャンプーを週1回」が一般的に推奨されていますが、2の皮膚コンディションや4の2次感染の有無などに応じてシャンプーをチョイスします。
以前に良かったシャンプーが、今もベストとは限りません。逆に不適切なシャンプーだと悪化させてしまうこともあります。
2。皮膚バリアとコンディションの正常化
その時の状態に応じたシャンプーを適切な頻度で行うとともに、保湿剤でのスキンケア
皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)は通常3週間ですが、アレルゲン(異物)が付着し炎症が起きると体は異物を追い出そうと、急ごしらえで不揃いな角質を作り、脱落させて異物を追い出そうとします。この脱落させたものが”フケ”ですが(乾性脂漏症)、角質は皮膚のラップの役割もあるので、早期に角質が脱落してしまうと、皮膚の水分や脂分が過剰に染み出してベタベタとした皮膚になります(湿性脂漏症)。一見、真逆のような症状に見えますが、元を辿れば皮膚のバリア機能が損なわれていることから起きているのです。皮膚バリアが破綻した状態が続くと、アレルゲンも侵入が容易になりますし、皮膚環境が悪いため皮膚表面の常在菌のバランスが崩れて繁殖し、二次的な感染性の皮膚炎が悪化していきます。皮膚炎が慢性化すると皮膚が黒く変色していき(色素沈着)、象の皮膚のように硬い状態(苔癬化)になってしまいます。苔癬化してしまった皮膚を元通りに戻すには適切な治療を長期で行うことが必要になります。
また、アトピーでは、皮膚の保水成分である「セラミド」が少ないと言われています。
石畳の道をイメージしてみてください。並んだ石が「角質」で、石と石の隙間を埋めるセメントが「セラミド」です。セラミドが不足すると表面の異物が奥に入っていきやすですし、水分や脂分といったものも奥から染み出してきやすです。皮膚が乾燥しやすくなり、バリア機能が低下してしまうのです。
アトピー性皮膚炎の犬では、適切なシャンプー(ベタつきが強いなら皮脂をよく落とす、二次感染があるなら殺菌系や抗マラセチア系など)を使うとともに、保湿剤を使用してスキンケアをすることで、皮膚バリア機能を助けることができます。
最近では、ナノバブルオゾン水が洗浄力が高く低刺激で保湿にいいと言われています。詳しくはこちら
3。アレルギー症状のケア
免疫抑制や抗炎症の薬剤ケア
ステロイドや免疫抑制剤、分子標的薬といった薬剤で炎症や痒みを抑えます。治療薬についてはまだ後日。
4。二次的症状に対するケア
二次性に感染兆候などがあれば、そのケアを行います。
上述の通り、アトピーでは二次感染がよく起こります。その兆候があれば、必要に応じて対処が必要です。
アトピー性皮膚炎の診断
アレルギー検査は最近は血液による検査(IgE検査など)が簡便での精度も向上しています。
ただし、これらの検査はあくまで「アレルギーの有無を推定する検査」であり、「痒みの原因となっているかどうか」はわかりません。アレルギーがあっても症状を示さない場合もありますし、症状は示しているが他の要因の方が大きな問題のこともあります。
「犬アトピー性皮膚炎の標準的治療ガイドライン」の中でも、「アトピー性皮膚炎の診断は患者の状態を総合的に判断し、検査値をもとに行うものではない」としています。診断で重要なのは、症状や基礎的な皮膚検査によって他の病気を除外し、総合的に判断することです。
(総合的にアトピー性皮膚炎であるとした場合は、次のステップとして、治療に役立てるためにアレルギー検査を行う事はとても有用です。)
皮膚病が起こると、飼主様によく聞かれるのが、「食べ物のせい?」です。
確かに食べ物(フード、おやつなど)が原因となるアレルギーもありますが、一般的にはアトピーの原因としては環境性のものが多いと言われています。
食物アレルギーは、アレルギー検査である程度わかりますが、全ての食材を完璧に診断することはできません。「除去食」というアレルギー用の特殊なフードを与えて皮膚の反応を見ていきます。また、食物アレルギーの場合は、薬剤による治療に反応が悪いと言われています。
最後に・・・
ヒトでもアトピーについては根本治療がなく多くの方が悩んでいる疾患です。多くの研究が行われており、今後は画期的な治療法が出てくるかもしれませんが、現在のところは、できることをやっていき維持を目指すしかありません。最近では、腸内細菌叢とアレルギーが関連しているとの報告が多数あります。