2024.04.20
猫の多発性嚢胞腎(PKD)
こんにちは!
獣医師の多々良です。
猫の多発性嚢胞腎という病気をご存知でしょうか?
この病気は、猫に有名な遺伝性疾患で、両方の腎臓に嚢胞(液体の袋)と呼ばれる構造物がどこからともなく発生し、
時間と共に嚢胞の数と大きさが増大していき、最終的には正常な腎臓の構造を破壊してしまい腎不全に陥ってしまう。そんな怖い病気です。
昨年の秋に一人の猫ちゃんに出いました。
体重が減ってきたとの主訴で来院されて、血液検査を実施したところ腎数値が軽度上昇していました。
猫科の生き物は腎不全になりやすいので、ここまでは珍しいものでもなんでもありません。
しかし、腹部触診で明らかに大型の構造物が触知でき、それから精密検査へと移行しました。
診断は「多発性嚢胞腎」
病態としてはすでに進行しており、嚢胞の数も大きさもかなりの数存在しており、正常な腎臓構造が確認できないレベルでした。
この遺伝性疾患はゆっくりと進行していくことから、体が腎不全の状態に慣れてしまうことで、体重減少以外の症状がわかりにくかったのかもしれません。
この病気に治療法はなく、進行していく腎不全に対する補助療法を行うことしかできません。
しかし2020年発表の多発性嚢胞腎ガイドラインでは、「トルバプタン」という薬を使用することがあると記載があります。
多発性嚢胞腎の嚢胞はバソプレッシンというホルモンの作用で大きくなることが知られており、このバソプレッシンの分泌を抑制するのが、抗バソプレッシン薬と呼ばれるトルバプタンです。
人のガイドラインでトルバプタンの使用タイミングとして「経過観察に基づく急速進行例や、画像検査などに基づき急速な進行が予想される例など、診療情報を駆使し進行が早く予後不良な症例を同定した上で、腎機能低下の抑制を目的としたトルバプタン治療を推奨する」と記載があります。
evidence_PKD_guideline2020.pdf (jsn.or.jp)
今回の猫ちゃんの例だと、経過観察中に急速に腎数値が上昇してきたので、オーナー様と相談し、トルバプタンの使用を開始しました。
猫でトルバプタンを使用した例は少なく、効果が期待できるとされてはいるものの、詳しいことはわかっておらず、その容量すら不明な点が多いです。
しかし、刻々と増大していく腎嚢胞をなすすべなく眺めていることはできず、今回トルバプタンを使用する運びとなりました。
現在トルバプタンを使用して6ヶ月経過しますが、オーナー様の献身的なサポートもあり、腎数値は徐々に下がってきており、今もその子は頑張っています。
多発性嚢胞腎は非常に有名な猫ちゃんの遺伝性疾患ですが、症例数としては非常に珍しく、あまり経験のない獣医師も少なくないのではないでしょうか。
私事ではありますが、多発性嚢胞腎の新たな治療法やトルバプタンの容量などの情報が少しでも入ればと思い、腎泌尿器学会の認定医プログラムに参加し、現在腎泌尿器認定医を取得中です(3年かかりますが、、、)。
もし多発性嚢胞腎の治療方法やトルバプタンに関する情報をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひご教授いただけると幸いです。
オンライン診療も行っております。症例紹介をご覧になって気になる方は、ぜひご活用ください。