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2025.07.09

症例紹介【糖尿病性ケトアシドーシス】

プロフィール

15歳 ミニチュアダックスフンド 避妊雌

主な既往歴

以前より慢性膵炎、中等度の腎機能低下などがあり、自宅にてインスリンの注射や定期的な皮下点滴などを行っていたが、一時的な食欲不振などを慢性的に繰り返していた。

症状および経過

前日より食欲廃絶し、起立が困難になったことを主訴に来院。血液検査では白血球、炎症マーカー(CRP)の上昇、腎数値上昇、尿からケトン体の検出などあり、レントゲンエコー検査では著変は認められなかった。

直ちに輸液を実施し脱水補正を行った後、レギュラーインスリンの投与など行い血糖値が低下したところでグルコースインスリン療法に切り替えました。

腎盂腎炎の併発も考慮し、抗生剤の投与と腎臓ケアとしてドパミン点滴なども併用し、第3病日には食欲が戻り、通常時に使用していた長時間型インスリンに切り替え血糖コントロールを実施。以降状態が安定したため、退院となりました。

解説

【獣医師監修】犬の糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)とは?原因・症状・治療法を徹底解説

はじめに

犬の糖尿病は比較的よく見られるホルモン性の疾患ですが、その合併症のひとつに「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」があります。これは命に関わる緊急性の高い病態であり、早期発見と適切な治療が生死を分けます。

本記事では、犬の糖尿病性ケトアシドーシスについて、原因・症状・診断・治療法・予後を獣医師が詳しく解説します。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)とは?

糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis:DKA)は、インスリン不足により血糖が異常に高くなるとともに、「ケトン体」と呼ばれる有害な代謝産物が蓄積し、血液が酸性に傾く(アシドーシス)病態です。

通常の糖尿病よりも重篤で、進行が早く、放置すると昏睡や死に至ることもあるため、緊急の対応が必要です。

犬の糖尿病性ケトアシドーシスの主な原因

  • インスリン治療の不十分な管理(未治療または投与忘れ)
  • 感染症(膵炎、子宮蓄膿症、尿路感染など)
  • 重度のストレスや手術後
  • その他のホルモン性疾患(クッシング症候群など)
  • 長期間コントロールされていない糖尿病

ケトアシドーシスは重篤な疾患ですが、インスリン療法を行っている子がしっかりインスリンを打てているのに発症した場合は、何かインスリン抵抗性が増す病気を併発している場合が多いということを意識することが重要です。

原因となった疾患を特定し、その治療を確実に実施することが、DKAの治療の成否を分けることが多いです。

 

主な症状

  • 食欲不振または完全な拒食
  • 大量の飲水と頻尿(多飲多尿)
  • 嘔吐・下痢
  • 呼吸が荒くなる(クスマウル呼吸)
  • 元気がなくなる、ぐったりして動かない
  • 口臭が甘酸っぱい(ケトン臭)
  • 脱水、低体温、痙攣、昏睡

これらの症状が出た場合は、すぐに動物病院を受診してください。

診断方法

以下のような検査を通じてDKAを診断します:

  • 血液検査:高血糖、ケトン体の存在、アシドーシスの確認
  • 尿検査:尿中ケトン、糖の検出

同時に全身状態の把握、併発疾患の有無の検査を行います。

  • 電解質バランスや腎機能の評価
  • X線や超音波検査:膵炎や他の合併症の評価

DKAの場合は、重度の脱水や電解質異常が起こっていることが多いです。また、この後の治療で低カリウムや低リン血症が起こることが多いですので、全身状態の把握は重要です。

治療法

DKAの治療は集中管理が必要で、通常は入院治療になります。

1. 輸液療法(点滴)

脱水の補正と電解質バランスの調整を行います。インスリン療法を開始する前に最優先すべきは静脈内輸液による脱水補正が重要です。

脱水が重度だとインスリン抵抗性が増しますし、糖分の細胞内取り込みと同時に細胞外液も細胞内へ取り込まれてしまい、細胞外脱水(循環血流量低下)を助長してしまうリスクが高くなります。

2. インスリン療法

通常、持続的な短時間型インスリン投与が選ばれます。

血糖値が落ち着いた(250mg/dL程度)ら、ブドウ糖液の点滴に切り替え、レギュラーインスリンを継続して投与します。

糖をいれながらインスリンを投与することで、エネルギー産生の回路が通常の回路にもどり、ケトン体の産生がおさまります。

3. 合併症の治療

膵炎や感染症がある場合は、抗生剤や支持療法を併用します。

4. 頻回モニタリング

治療中は1~数時間ごとに血糖や電解質をチェックしながら調整します。

急激な血糖値低下は脳浮腫を引き起こします。

また、インスリンの投与は低リンや低カリウム血症を起こします。低リンは赤血球を脆弱にし溶血性貧血を起こし致死的になる場合があるので、定期モニタリングは重要です。

予後と再発防止

糖尿病性ケトアシドーシスは早期に治療すれば回復可能ですが、重症例では死亡率も高くなります。回復後の管理が非常に重要です。

  • インスリン治療の継続
  • 適切な食事管理
  • 定期的な血糖チェック
  • 感染症やストレスの管理

よくある質問(Q&A)

Q:犬の糖尿病でも元気そうなのにDKAになりますか?

A:なります。初期は軽度の症状でも、急激に悪化するケースがあります。

Q:市販のケトン試験紙でチェックできますか?

A:簡易的には可能ですが、正確な診断は動物病院での血液検査が必要です。

まとめ

糖尿病性ケトアシドーシスは、犬の糖尿病の中でも特に危険な合併症です。早期発見・早期治療が命を救う鍵です。

「最近、愛犬の様子がおかしい」「食欲がないのに水ばかり飲んでいる」などの異変を感じたら、すぐに動物病院へご相談ください。

当院では、糖尿病やDKAの管理を含め、内分泌疾患に力を入れた診療を行っています。愛犬の健康が気になる方はお気軽にご相談ください。

監修:獣医師 古荘 動物病院アニマルプラス / 記事制作:2025年7月