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2023.09.13

アトピー性皮膚炎について~基本と将来の可能性~

慢性的に皮膚の痒みに悩む方は多いですが、梅雨以降の暑くてジメジメした時期もそうですが、季節の変わり目には痒みが発症する方も多いです。アトピー性皮膚炎は治ることのない一生付き合っていかないといけない疾患です。ですので、わんちゃんも飼い主さんも大変だと思いますが、この記事が少しでもお役に立てればと思います。

アトピー性皮膚炎とは?

犬アトピー性皮膚炎の学術的な定義は「遺伝的素因が関与する炎症と痒みを伴うアレルギー性皮膚疾患であり,環境性抗原に対する IgEが関与する特徴的な臨床症状を呈することが最も一般的である」とされていますが、簡単にいうとアレルギーや、体質的に皮膚のバリア機能が弱いことで見られる痒みを伴う皮膚病です。

皮膚のバリアとなる角質がイヌはヒトの1/3ほどの厚さしかありません。そのため、ちょっとした乾燥、刺激、ストレスで炎症を起こしてしまいます。特に環境性のアレルゲン(ハウスダスト、花粉、マラセチア(皮膚の常在菌)など)に免疫反応が過剰起こって炎症が起きやすいといわれています。

環境性のものなので、完全な除去は難しく、炎症を抑えるなどの治療を行いますが、根本治療はないので生涯治療が必要となります。

またアトピー性皮膚炎では、元々皮膚が弱いことに加え慢性的な炎症でさらに皮膚コンディションが悪くなるため、二次的に感染性皮膚炎(細菌性の皮膚炎やニキビダニ症など)を繰り返し起こすことがよくあります。ですのでアトピーの治療に加え、必要に応じて感染性皮膚炎の治療が必要となります。

アトピー性皮膚炎の管理の基本

アトピー治療の柱は大きくわけて4つです。どれかだけを行えばよいのではなく、それぞれ組み合わせて最大の効果を狙います。また、常に同じ治療が必要なのではなく、その時々のコンディションに応じて変えていく必要があります。

1。アレルゲンの除去

完全な除去は難しいですが、住環境の清浄やシャンプーでアレルゲンの数を減らすことは、効果的な場合があります。

ハウスダストは完全に除去することはできないと言われていますが、掃除や空気清浄機である程度軽減できることがあります。また、シャンプーは「低刺激性で保湿力の高いシャンプーを週1回」が一般的に推奨されていますが、2の皮膚コンディションや4の2次感染の有無などに応じてシャンプーをチョイスします。

以前に良かったシャンプーが、今もベストとは限りません。逆に不適切なシャンプーだと悪化させてしまうこともあります。

2。皮膚バリアとコンディションの正常化

その時の状態に応じたシャンプーを適切な頻度で行うとともに、保湿剤でのスキンケア

皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)は通常3週間ですが、アレルゲン(異物)が付着し炎症が起きると体は異物を追い出そうと、急ごしらえで不揃いな角質を作り、脱落させて異物を追い出そうとします。この脱落させたものが”フケ”ですが(乾性脂漏症)、角質は皮膚のラップの役割もあるので、早期に角質が脱落してしまうと、皮膚の水分や脂分が過剰に染み出してベタベタとした皮膚になります(湿性脂漏症)。一見、真逆のような症状に見えますが、元を辿れば皮膚のバリア機能が損なわれていることから起きているのです。皮膚バリアが破綻した状態が続くと、アレルゲンも侵入が容易になりますし、皮膚環境が悪いため皮膚表面の常在菌のバランスが崩れて繁殖し、二次的な感染性の皮膚炎が悪化していきます。皮膚炎が慢性化すると皮膚が黒く変色していき(色素沈着)、象の皮膚のように硬い状態(苔癬化)になってしまいます。苔癬化してしまった皮膚を元通りに戻すには適切な治療を長期で行うことが必要になります。

また、アトピーでは、皮膚の保水成分である「セラミド」が少ないと言われています。

石畳の道をイメージしてみてください。並んだ石が「角質」で、石と石の隙間を埋めるセメントが「セラミド」です。セラミドが不足すると表面の異物が奥に入っていきやすですし、水分や脂分といったものも奥から染み出してきやすです。皮膚が乾燥しやすくなり、バリア機能が低下してしまうのです。

アトピー性皮膚炎の犬では、適切なシャンプー(ベタつきが強いなら皮脂をよく落とす、二次感染があるなら殺菌系や抗マラセチア系など)を使うとともに、保湿剤を使用してスキンケアをすることで、皮膚バリア機能を助けることができます。

最近では、ナノバブルオゾン水が洗浄力が高く低刺激で保湿にいいと言われています。詳しくはこちら

3。アレルギー症状のケア

免疫抑制や抗炎症の薬剤ケア

ステロイドや免疫抑制剤、分子標的薬といった薬剤で炎症や痒みを抑えます。最近は長期的に使用しても副作用が少ないと言われる分子標的薬などもでてきて、以前よりも治療法が拡がってきておりますが、どの治療も根治を目指すものではなく症状を抑える治療なので、生涯治療を継続しなければなりません。

4。二次的症状に対するケア

二次性に感染兆候などがあれば、そのケアを行います。

上述の通り、アトピーでは二次感染がよく起こります。その兆候があれば、必要に応じて抗菌剤等による対処が必要です。

アトピー性皮膚炎の診断

アレルギー検査は最近は血液による検査(IgE検査など)が簡便での精度も向上しています。
ただし、これらの検査はあくまで「アレルギーの有無を推定する検査」であり、「痒みの原因となっているかどうか」はわかりません。アレルギーがあっても症状を示さない場合もありますし、症状は示しているが他の要因の方が大きな問題のこともあります。

「犬アトピー性皮膚炎の標準的治療ガイドライン」の中でも、「アトピー性皮膚炎の診断は患者の状態を総合的に判断し、検査値をもとに行うものではない」としています。診断で重要なのは、症状や基礎的な皮膚検査によって他の病気を除外し、総合的に判断することです。
(総合的にアトピー性皮膚炎であるとした場合は、次のステップとして、治療に役立てるためにアレルギー検査を行う事はとても有用です。)

 

皮膚病が起こると、飼主様によく聞かれるのが、「食べ物のせい?」です。
確かに食べ物(フード、おやつなど)が原因となるアレルギーもありますが、一般的にはアトピーの原因としては環境性のものが多いと言われています。

食物アレルギーは、アレルギー検査である程度わかりますが、全ての食材を完璧に診断することはできません。「除去食」というアレルギー用の特殊なフードを与えて皮膚の反応を見ていきます。また、食物アレルギーの場合は、薬剤による治療に反応が悪いと言われています。

 

最近の研究から…新たな治療法の可能性

腸内細菌叢とアレルギー

ヒトでもアトピーについては根本治療がなく多くの方が悩んでいる疾患です。多くの研究が行われており、最近では、腸内細菌叢とアレルギーが関連しているとの報告が多数あります。

「腸は第二の脳」とも呼ばれていて、腸の機能が体全体に影響を与えていることがわかっています。※1,2

特にいわゆる「免疫力」と呼ばれる機能には特に密接に関係していて、人間では、体の免疫に関係する細胞の約70%から80%が腸に存在し、その免疫細胞の調節に腸内細菌が大きく関わっていていることが知られています。人間の病気では、潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸に病変が見られる病気のほか、直接腸とは関係のない肥満動脈硬化アレルギー糖尿病がん(腸管以外もガンも含む)リウマチ認知症などの病気と腸内細菌の関係性について多くの報告がされています。

 

一例として、写真はFK-23という乳酸菌死菌株を摂取したアトピーのワンちゃんの写真です。

眼の周り(アトピーの病変は粘膜から皮膚の移行部にでることが多いので眼の周りは出やすい場所です)の黒くなった部分が良化しています。

犬に関する研究報告はまだ人間ほど多くありませんが、科学的に証明された効果がいくつか発表されています。

○アトピー性皮膚炎の犬にケストース※※を与えると皮膚スコアが改善。※3

○乳酸菌の一種を与えることでアトピーの治療薬を減量、休薬できた※4

○腸内細菌叢とアレルギー疾患は密接に関わり合っている※5

 

他にも腸内細菌と病気との関係性を示唆する報告は多く、おそらく人間と同じように腸内細菌が犬や猫の病気に影響を与えている可能性は十分に考えられます。

アトピーは治ることがない病気で、最近は副作用の少ないお薬なども出てきて長期的な服薬のデメリットは以前に比べ減ってきているとはいえ、極力少ない投薬で済むことが望ましいことに変わりはありません。

 

ワンちゃんでは、まだまだメジャーな健康法としては広まっていませんが、アトピーをはじめ多くの病気の予防に腸活は大きな可能性を秘めています。

※※腸活にオリゴ糖の王様”ケストース”

ケストースは、オリゴ糖の一種ですが、”オリゴ糖の王様”とも呼ばれ、タマネギやライ麦などの我々が日常的に摂取する野菜や果物にも微量含まれている「希少な」糖質です。ケストースは、砂糖によく似たまろやかな味質(甘味度:30)で、耐熱性にも優れることから食品加工時の利便性が高い食品素材ですが、経口摂取後は消化されることなく消化管下部へと輸送され腸内細菌により選択的に利用されるため、プレバイオティクス(腸内細菌を育てる働きをする)となり得る条件を備えています。

他のオリゴ糖は、いわゆる悪玉菌と呼ばれる体によくない菌のエサにもなり、悪玉菌も増殖してしまいますが、ケストースは、腸内を悪玉菌が活動できない環境に変え善玉菌のみを増やすという作用があります。

また、ケストース以外のオリゴ糖類は「酪酸菌」を増やすことができないのに対し、ケストースは「酪酸菌」を増殖させて腸内の酪酸濃度を上げる働きがあります。

この酪酸菌ですが、最近とても注目されていて、「健康長寿」と関係していると言われています。酪酸菌は腸内で短鎖脂肪酸というものを生成するのですが、免疫担当細胞に働きかけ炎症反応をおさめてくれる等、免疫機能に好影響を与えてくれ、全身に好影響を与えます。逆に短鎖脂肪酸が減少すると、免疫機能に不具合が生じてしまいます。

(腸は最大の免疫器官と言われ、免疫に関わる細胞や抗体全体の約60%が腸に存在し、皮膚や脳といった消化器とは直接関連がなさそうな遠くは離れた臓器にも様々な影響を及ぼすことが近年わかってきています。ヒトでは全身の免疫力やアンチエイジング、(消化管とは関連のない)臓器の腫瘍や、認知症、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などといった様々な全身の病気と腸内細菌叢が関連していることがわかってきています。)

では酪酸菌を摂取すればいいかというとそういうわけではなく、食事やサプリメントなどから取り入れた乳酸菌は「通過菌」と呼ばれ、定着することが出来ず、「数日で排出される」と言われています。ですので、単にいい菌を摂取するだけではなく、体の中でいい菌を増やすことが大切と言われています。

このような理由から、ケストースを摂取することで、ヒトでは体にとって様々な効果が期待できると最近注目を集めています。

具体的には。。。

・アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎の改善
(約70%の試験ボランティアがアレルギー症状の改善を実感)

・インスリン抵抗性の悪化を予防(つまり糖尿病の予防)
ケストースは、人間や犬の消化酵素(スクラーゼ)で分解されないずに大腸に届くので、吸収されず甘いのに摂取後も血糖値はほとんど上昇しません。
インスリン抵抗性の改善効果に関する成果は 国際科学雑誌Nutrientsにも掲載されています。

・太りにくい体を作る

・肌の保水力アップ

・アンチエイジング

・感染症に対する抵抗力の向上

など、様々な効果があります。

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腸内環境は体の健康の基礎となり、様々な研究が進み今後大きく期待される分野です。

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「FK-23」は東京大学などで犬における効果が研究され、米国皮膚科学会にて効果が報告されている数少ない乳酸菌です。

近年ではプロバイオティクス(善玉菌自体を摂取すること)とプレバイオティクス(善玉菌を育てる物を摂取すること)を併用した方が効果的といわれていることから、ダブルの有効成分としています。

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腸活については、下記の記事もご参照してみてください。

スーパー乳酸菌「殺菌乳酸菌FK-23」 

 

<出典>

※1.論文名:Intestinal barrier and gut microbiota: Shaping our immune responses throughout life

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5788425/

※2.論文名:Tissue distribution of lymphocytes and plasma cells and the role of the gut

URL:https://www.cell.com/trends/immunology/fulltext/S1471-4906(08)00086-0

※3論文名:Kestose supplementation exerts bifidogenic effect within fecal microbiota and increases fecal butyrate concentration in dogs

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6983673/

※4論文名:A Double-Blind, Placebo Controlled-Trial of a Probiotic Strain Lactobacillus sakei Probio-65 for the Prevention of Canine Atopic Dermatitis

URL:https://www.jmb.or.kr/journal/view.html?doi=10.4014/jmb.1506.06065

※5論文名: Atopic dermatitis and the intestinal microbiota in humans and dogs

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5645856/