2024.03.07
猫の歯肉口内炎の治療選択肢について
こんにちは。
獣医師の多々良です。
今回は猫の歯肉口内炎の治療方法についてお話しさせていただきます。
猫の歯肉口内炎の治療方法
猫の歯肉口内炎というのは我々が想像する口内炎とは全くの別物で、口の中が炎上しているかの如く真っ赤に炎症を起こし、有効な治療法がなく、かつ非常に強い疼痛を伴う悩ましい疾患です。
口腔内の激しい疼痛のため食事を取ることも難しく、食べたそうにはするが、悲鳴をあげてのたうち回ることもあります。
猫の歯肉口内炎の原因は、2024年の現在においても未だ解明されていません。猫カリシウイルス(FCV)や口腔内細菌の関与が疑われてはいますが、詳しいことは解明されていません。
猫の歯肉口内炎の治療選択肢は大きく分けて外科的治療と内科的治療の2つに大別されます。
このうち最も効果が高いとされているのが外科的治療です。
外科的治療とは、それはすなわち「抜歯」するということです。
歯を全て抜歯する「全顎抜歯」や臼歯のみを抜歯する「全臼歯抜歯」が選択されることが多いです。
しかし抜歯処置には必ず麻酔が必要になり、症例の年齢や基礎疾患によっては麻酔をかけられないケースもあリ、必ずしも最善の手段ではありません。
そこで外科的治療を選択できないときに行われるのが、内科的治療です。
内科的治療はあくまで対症療法であり、一時的に症状が改善しても短期間のうちに再発してしまうことがほとんどです。
ですので理想としては外科的治療に併用して行うと効果が高いです。
内科的治療の選択肢としては①抗生剤②免疫抑制剤③インターフェロン④鎮痛剤⑤その他の治療法、などが挙げられます。
今回はその内科的治療の選択肢について詳しく紹介します。
-
抗生剤
抗生剤治療の目的としては口腔内細菌の撲滅による口腔内環境の改善である。
歯肉口内炎の原因の一つに口腔内細菌によるものの可能性も示唆せれているので、そこに対してのアプローチとなる。
実際、抜歯という手段をを取らなくても抗生剤のみで症状が軽減する症例も多い。
そういう意味では麻酔下で抜歯をしなくてもスケーラーを用いて歯のクリーニングを行う(スケアリング)だけでも効果を得られることもある。(全抜歯処置は長時間の麻酔が必要となるが、歯のクリーニングであれば短時間で終わることが多く、麻酔を長時間かけたくない症例には、歯のクリーニングのみを行うことも多い)
-
免疫抑制剤
ステロイドなどの免疫抑制剤には強い抗炎症作用があるので、猫の歯肉口内炎の強烈な炎症を鎮めることができる。
しかしステロイドには副作用があり、ある種の基礎疾患や、感染症が併発している場合には注意が必要である(なので海外では猫の歯肉口内炎に対するステロイドの使用は慎重に行うべきとされている)。
そうとはいうものの、実際の臨床現場ではステロイドを使用して劇的に口腔内の疼痛から解放された症例が多々存在し、現在日本における内科的治療の主力となっている。
シクロスポリンなどのステロイド以外の選択肢もあるが、その抗炎症作用はステロイドには劣り、ステロイドの代替案、もしくは減量のために使用されることが多い。
-
インターフェロン
ネコインターフェロンに関しる報告は多く、二重盲目の臨床治験で臨床的な効果が認められている。しかし明確な「効果」は感じづらく、補助的な治療という位置付けである。
ネコインターフェロンは歯肉口内炎に対する攻撃力はイマイチだが、副作用がほとんど報告されていないので、単独で使用するというよりは、何か別の内科的治療に併用して行われることが多い。
現在インターフェロンには注射薬に加えてインターフェロンαという飲み薬の製品も販売されていますので、自宅での口内炎コントロールの選択肢として当院でも販売しております。
-
鎮痛剤
猫の歯肉口内炎は、まるで炎上しているかの如く非常に強い疼痛があることが知られています。ですので鎮痛剤の仕様が推奨されており、鎮痛剤の種類としてはカルプロフェン、メロキシカム、ロベナコキシブ、ブプレノルフィンなど様々な選択肢があります。
-
その他の治療法
間葉系幹細胞…重度難治性歯肉口内炎に対する、自家間葉系幹細胞の治療報告があり、7頭中3頭の猫が完全な臨床的寛解を得ることができ、2頭が実質的な臨床的改善、2頭が無反応だっという内容であった。
もし今後間葉系幹細胞が実際に動物病院での利用が開始されると、今までは改善が困難だった難治性の口内炎に対するアプローチができる様になるかもしれない。今後のさらなる研究に期待である。
以上が猫の歯肉口内炎に対する内科的な治療選択肢でした。
猫の歯肉口内炎は前述のように非常に強い疼痛を伴うので、一刻も早くその痛みから解放しなければなりません。
しかしその病態は複雑でまだ解明されてないことも多く、一筋縄に治療が完了することは少ないです。
治療プランについて獣医師と相談し、一人一人の状態や症状にあった治療プランを一緒に見つけていくことが重要です。
当院にはインターフェロンαをはじめとした内科的な治療薬が豊富に揃っています。
愛猫の口の中が痛そうに感じた時は、すぐにご相談いただけたらと思います。