2023.08.18
腸内細菌叢と腎臓病
今回の研究紹介は「腎臓病と腸内細菌叢、短鎖脂肪酸の関連」についてです。
腎臓はおしっこを作って、身体の老廃物を身体の外に送り出す臓器です。慢性腎臓病は何らかの原因で腎臓の機能が弱ってしまい、老廃物がうまく排泄できずに身体に貯まってしまう病気です。老廃物は体にとっては毒のようなものなので、貯まってしまうことでさまざまな悪影響を及ぼします。
犬の慢性腎臓病は
- 加齢による腎臓の機能低下
- 先天性の腎疾患
- 細菌やウイルスの感染による腎炎
- 悪性腫瘍
- 外傷
- 薬物などによる中毒
- 心筋症やショックなどによる腎血流量の低下
- 免疫疾患などによる腎炎
- 結晶や結石などによる尿路の閉塞
などが原因で、数か月から数年と長い期間にわたって腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。
慢性腎臓病により一度壊されてしまった腎臓の組織が、治療により回復することはありません。また、多くの場合、腎機能低下の進行を止めることもできません。
そのため、慢性腎臓病の治療では、血液中の老廃物や毒素を体内に貯めないようにすること、そして、慢性腎臓病の進行を緩やかにすることが重要となります。
具体的には点滴や積極的に水分を補給することにより、脱水を予防したり、体内の水分量を増加させて尿量を増やし、老廃物の排泄を促したりします。
また、腎臓の負担を軽減させるための食事療法や薬物療法などを行うことが一般的となっています。
腸内細菌叢と腎臓病
腸内細菌叢は宿主にとって栄養面や免疫制御など種々の有益な機能を果たしているため,その破綻はさまざまな疾患の病態に関与しています。
近年、腸内細菌に関する研究は飛躍的進歩を遂げており,腸疾患以外にもさまざまな臓器の病態との関与が次々に報告されています。
腎臓病との関連も例外ではなく,腸内細菌叢および腸管機能はその病態に深く関与することが知られており,腸管と腎臓の臓器連関である「腸腎連関」が注目されてきています。
短鎖脂肪酸と腎臓
腸内細菌による代謝は体内における代謝物分布にも大きな影響を与えます。そのため,腸内細菌叢の有無や組成の変化によって血中濃度が大きく変化するような代謝物も数多く存在し、腎臓病の病態に正負両面から関与することがわかってきています。以下はある論文からの抜粋です。
腸内細菌由来代謝物のうち,短鎖脂肪酸は腎臓病の病態にとって保護的に作用する可能性が報告されており,一方,腎臓病の病態に対して有害性を示す代謝物の代表例は,インドキシル硫酸をはじめとする尿毒素類です。
腸内細菌叢のうち炭水化物発酵菌は,難消化性の食物繊維を大腸内で分解することで短鎖脂肪酸(酪酸,酢酸,プロピオン酸)や乳酸などの有機酸を産生します。この腸管で産生された短鎖脂肪酸は腸管上皮のエネルギー源になるうえ,制御性 T 細胞の分化・維持など免疫制御にも関与します。
ヒトの慢性腎臓病(CKD)では腸内細菌叢の乱れの結果,短鎖脂肪酸産生菌が減少することが報告されており,マウスでも短鎖脂肪酸の産生が減少することを認められています。
この短鎖脂肪酸の産生低下は,腸管上皮障害やバリア障害などの腸内環境の悪化を介して慢性炎症の一因となり,腎臓病の病態に関与するとも考えられており、治療応用としては,短鎖脂肪酸の全身投与が腎虚血再灌流モデルマウスにおける腎障害を軽減させたことが報告されている。また腸管内短鎖脂肪酸の産生を増やすような高アミローススターチ食が,CKD マウスにおける腎内炎症を抑制するとともに腎障害進展抑制効果を有することが報告されている。このように,腸内細菌叢由来の代謝物は短鎖脂肪酸のように腎保護的な役割を担っている可能性がある。
このように、現在では根本的改善が難しい慢性腎臓病について、腸内細菌叢(特に短鎖脂肪酸)が解決のキーポイントになる可能性が示唆されています。
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