動物病院アニマルプラス
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2026.08.24

犬のアトピー性皮膚炎の解説

犬の「アトピー」は、単純に「アレルギー体質」や「IgEが高い状態」と考えるものではありません。

現在の獣医学では、遺伝的素因を背景として、主に環境アレルゲンに対する過敏反応と皮膚バリア異常などが関与する、慢性・再発性の炎症性皮膚疾患として捉えるのが適切です。

犬のアトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis:CAD)の治療は、「薬でかゆみを止める」だけではありません。

増悪因子、皮膚バリア、二次感染、免疫反応などを総合的に考え、長期的に再発をコントロールしていくことが基本となります。

現在、犬のアトピー性皮膚炎の診療では、ICADA(International Committee on Allergic Diseases of Animals)のガイドラインなどが重要な参考になります。

2023 AAHAガイドラインでは、診断から二次感染、掻痒管理までを含めたmultimodal approach(多面的な治療)が推奨されています。

1.まず「アトピー」以外の病気を確認する

アトピー性皮膚炎は「除外診断的」に診断します

アトピー性皮膚炎が疑われるからといって、最初から抗炎症薬だけを投与するのではありません。

まず、似た症状を起こす他の病気や、症状を悪化させている要因を確認することが重要です。

  • ノミ・マダニなどの外部寄生虫
  • 食物アレルギー/食物反応
  • 細菌性膿皮症
  • Malassezia皮膚炎
  • 外耳炎
  • その他の感染症・寄生虫疾患
特に重要なのが「二次感染」の評価です。

細菌やMalasseziaによる二次感染は、犬のかゆみを大きく増悪させることがあります。

そのため、必要に応じて皮膚検査などを利用して感染の有無を確認します。

AAHA 2023では、アレルギー性皮膚疾患の患者に対して、最低限の皮膚科検査を行い、二次感染・外部寄生虫・掻痒を評価し、必要に応じて治療することが重要とされています。

2.治療の基本は「5本柱」

犬のアトピー性皮膚炎は、1種類の治療だけで管理するのではなく、複数の治療を組み合わせることが重要です。

① 増悪因子の管理

症状を悪化させる要因を減らす

ノミ予防、二次感染の治療、食物反応への対応などを行います。

② スキンケア

皮膚バリアを改善する

シャンプー、保湿、適切な皮膚洗浄などを行います。

③ かゆみの抑制

QOLを改善する

オクラシチニブ(アポキル®)、ロキベトマブ(サイトポイント®)、グルココルチコイドなどを状態に応じて使用します。

④ アレルゲン対策

再燃を減らす

環境アレルゲンや食物反応など、犬ごとの増悪因子に対応します。

⑤ 長期的な再発予防

できるだけ良い状態を維持する

必要最小限の薬物療法、プロアクティブ療法、アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)などを検討します。

急性期だけを見るのではありません

ICADAでは、犬のアトピー性皮膚炎を急性増悪・慢性期・再発予防の3段階に分けて治療を考えることが推奨されています。

3.急性増悪(フレア)の治療

「急にかゆくなった」「赤みや湿疹が強くなった」という状態が急性増悪(フレア)です。

急性期の基本的な考え方

① 増悪因子を探す
② 二次感染を治療する
③ 皮膚を洗浄・保湿する
④ 強い掻痒を速やかに抑える

急性期の掻痒・炎症には、以下のような治療が使用されます。

  • オクラシチニブ(アポキル®)
  • グルココルチコイド
  • 局所病変に対する外用グルココルチコイド
薬だけでは十分ではありません

急性期にかゆみを抑えることは重要ですが、同時に二次感染、外部寄生虫、食物反応などの増悪因子を確認することが重要です。

4.慢性期の治療

慢性期では、「ずっと薬を飲ませ続ける」という考え方だけではなく、できるだけ再燃しにくい皮膚状態を維持することが重要です。

オクラシチニブ(アポキル®)

JAK阻害薬。掻痒を比較的速やかに抑えられるため、急性期~慢性期の掻痒管理に使用されます。

ロキベトマブ(サイトポイント®)

IL-31を標的とする抗体製剤。犬のアトピー性皮膚炎に伴う掻痒を選択的に抑える治療です。

シクロスポリン

T細胞機能を抑制する免疫調節薬。効果発現まで時間がかかるため、慢性的な管理で使用されます。

グルココルチコイド

非常に有効な治療薬ですが、長期連用では副作用が問題となるため、使用方法には注意が必要です。

ICADA 2015では、慢性CADに対して経口グルココルチコイド、シクロスポリン、オクラシチニブはいずれも有効性の高い治療選択肢とされています。

薬物療法だけでなく、シャンプーや保湿などのホームケアを組み合わせることで、皮膚の状態を安定させ、薬剤の減量や休薬を検討しやすくなる場合があります。

5.「皮膚バリア」の管理が非常に重要

アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能の低下が病態に関係すると考えられています。

皮膚バリア機能の低下
水分が失われる
アレルゲンが侵入しやすくなる
炎症・掻痒
犬が掻く
さらに皮膚バリアが壊れる

だから「スキンケア」が重要です

シャンプー+保湿+適切な皮膚ケア

これらは単なる補助的なケアではなく、アトピー性皮膚炎を長期的に管理するうえで重要な要素です。

ICADAでは、慢性CADでは皮膚・被毛の衛生管理を改善し、必要に応じて入浴頻度を増やすことなどが推奨されています。

しかし、シャンプーのやり方を間違うとせっかくのケアが台無しになってしまうこともあります。

6.食事療法

以下のような場合には、食物反応の関与を疑い、食物除去試験を検討します。

  • 非季節性のかゆみ
  • 消化器症状を伴う
  • 若齢から発症している
  • 通常の治療への反応が不十分
「アトピー=食物アレルギー」ではありません。

食物反応と環境アレルゲンによるアトピー性皮膚炎が併存する犬もいます。

食物アレルギーの場合は内服薬の反応が悪いともいわれていますので、内服の反応が悪い場合は特に留意しましょう。

食事療法で改善したからといって、必ずしも環境アレルゲンによるアトピー性皮膚炎が否定されるわけではありません。

ICADAでも、食物反応が疑われる犬では、食物除去・負荷試験が標準的な診断方法とされています。

7.アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)

長期管理では、アレルゲン特異的免疫療法も重要な選択肢です。

いわゆる「減感作療法」です

アレルゲンに対する過剰な免疫反応を徐々に変化させることを目的とした治療です。

ステロイドやオクラシチニブのように単純に「かゆみを抑える」のではなく、疾患そのものの長期的なコントロールを目指すことが特徴です。

ただし、効果が現れるまで数か月かかることがあり、短期間で効果を判断する治療ではありません。

ICADAでは、アレルゲン特異的免疫療法を再燃予防の重要な治療として位置づけています。

8.実際の臨床では「組み合わせる」

「どの薬が一番効くか?」だけではありません

アトピー性皮膚炎では、

「この犬の悪化要因は何か?」
「今は急性期か慢性期か?」
「どの治療を組み合わせるか?」

という視点が重要です。

急性フレア

二次感染の治療
シャンプー・保湿
オクラシチニブ/ロキベトマブ/グルココルチコイドなど

症状が落ち着いたら

薬剤を必要最小限へ
スキンケア継続
ノミ予防
食物反応の評価

長期管理

定期的なスキンケア
必要最小限の抗掻痒薬
プロアクティブ外用療法
必要に応じて減感作療法

ICADAでも、治療は多面的であり、複数の介入を組み合わせることが最適な利益につながる可能性が高いとされています。


最後に|「アトピー」と「アレルギー性皮膚炎」の違い

犬では、この2つは同じ意味ではありません。

ここを整理すると、飼い主さんへの説明もしやすくなります。

アレルギー性皮膚炎 = 大きなカテゴリー

アトピー性皮膚炎 = その中の代表的な疾患

アレルギー性皮膚炎 アトピー性皮膚炎
意味 アレルギー反応によって起こる皮膚炎の総称 主に環境アレルゲンに対する過敏反応を背景とした慢性・再発性皮膚炎
原因 食物、ノミ、環境アレルゲンなど ハウスダストマイト、花粉などの環境アレルゲンが関与
代表例 食物アレルギー、ノミアレルギー、アトピー性皮膚炎 犬アトピー性皮膚炎(CAD)
季節性 原因によって異なる 季節性の場合も非季節性の場合もある
診断 原因ごとに異なる 特徴的な臨床症状+他疾患の除外など
アレルギー検査 原因によって必要性が異なる アレルゲン特異的IgE検査は診断そのものではない

「アレルギー性皮膚炎」は病名というより分類

犬の「アレルギー性皮膚炎」と言った場合、例えば以下のような疾患・病態を含みます。

① ノミアレルギー性皮膚炎(FAD)

ノミの唾液に対するアレルギー反応が関与します。

② 食物アレルギー/食物反応による皮膚炎

食物中の成分が皮膚症状に関与します。

③ 犬アトピー性皮膚炎(CAD)

環境アレルゲンなどに対する過敏反応が関与します。

「アレルギー性皮膚炎の中に、アトピー性皮膚炎がある」

ただし「アトピー=環境アレルギー」と単純化しすぎない

犬のアトピー性皮膚炎は、人のアトピー性皮膚炎と完全に同じ病態ではありません。

現在の犬アトピー性皮膚炎は、単純に「IgEが高い犬の病気」というより、複数の要因が複雑に関係する多因子疾患として捉えられています。

遺伝的素因
皮膚バリア機能異常
自然免疫・獲得免疫の異常
環境因子
微生物叢の変化
犬アトピー性皮膚炎の発症・増悪
アレルギー検査だけでアトピーは診断できません

アレルゲン特異的IgE検査が陽性だからアトピー、あるいは陰性だからアトピーではない、という単純な診断はできません。

犬アトピー性皮膚炎では、臨床症状や経過、他疾患の除外、二次感染の評価などを総合的に判断することが重要です。

獣医師からのメッセージ

犬のアトピー性皮膚炎は、「かゆみ止めを使えば終わり」という病気ではありません。

なぜ悪化したのかを見つけ、皮膚を良い状態に保ち、必要な治療を組み合わせながら、再発をできるだけ減らしていく。

これが、アトピー性皮膚炎の長期管理で大切な考え方です。

「薬を飲んでいるのにまたかゆくなる」「シャンプーをしても繰り返す」「季節になると悪化する」など、愛犬の皮膚症状でお悩みの場合は、一度獣医師にご相談ください。

参考: International Committee on Allergic Diseases of Animals(ICADA)治療ガイドライン、2023 AAHA Management of Allergic Skin Diseases in Dogs and Cats Guidelines など。